2022年08月26日
「ショコラティエ パレ ド オール」のスペシャリテ「パレドオール」を一口味わうと、まずその鮮烈な香りに驚かされます。チョコレートがこれほどまでに香り豊かなものだったとは。
フランス語で「金の円盤」を意味するこのスペシャリテは、トリニダード・トバゴ グランクヴァ農園のカカオ豆を主に用い、自社工房で焙煎から手がけて作り上げられたもの。シンプルだからこそ際立つカカオの存在感と、圧倒的な高品質を支えているのは、「チョコレート作りの全工程を自分たちで一貫して行う」というオーナーシェフ三枝俊介さんのこだわりです。
もともと「パレドオール」は、フランス・リヨンに本店を構えるショコラティエ「ベルナシオン」のスペシャリテでもあります。「ベルナシオン」はカカオ豆の状態からチョコレート作りを自社ですべて行うビーントゥバーの先駆けともいえる名店。当時パティシエだった三枝さんは1996年にリヨンに赴き、「ベルナシオン」の創業者であるモーリス・ベルナシオン氏のチョコレート作りに出会い、そのエスプリとフィロソフィーに深く感銘を受けました。
「チョコレートにも鮮度というものがあるということを知ってショックを受けました。とにかく香りが全然違う。日本に帰国してからもチョコレートの店を自分で立ち上げたいという思いが募りました」。
多くのショコラティエは市販のクーベルチュールをメーカーから購入し、それをもとにチョコレートを作っています。帰国してからの数年は、三枝さんにもカカオ豆を直接仕入れるルートがなく、手に入るクーベルチュールを使ってチョコレートを作っていました。ところが、2000年代に入ってアメリカでビーントゥバーのムーブメントが起こり、同じ頃、三枝さんにもカカオ豆の入手ルートが見つかったのです。また、ハービスPLAZA ENTへの出店を持ちかけられ、「ここだったら理想の店ができるかもしれない」と直感。それまでのパティシエとしての経歴を投げ打って、チョコレートに専念することを決めたといいます。
オーナーシェフ
三枝 俊介さん
「ホテルプラザ」で洋菓子界の重鎮・安井寿一氏に師事。1996年フランス・リヨンの名店「ベルナシオン」にてモーリス・ベルナシオン氏に出会い感銘を受ける。2004年、ハービスPLAZA ENT に「ショコラティエ パレ ド オール」、2014年、山梨・清里高原にビーントゥバー工房「アルチザン パレドオール」オープン。
三枝さんは、それまで清里で経営していたパティスリーを思い切って閉店。その場所にチョコレート作りに必要な機械をすべて運び込み、「アルチザン パレド オール」という工房を完成させました。清里高原の気候がヨーロッパに近く、チョコレートの製造に最適だと判断したからです。本格的な工房を得て、三枝さんはますますチョコレートの奥深さに感じ入り、カカオ豆の個性をいかしたチョコレート作りにのめり込んでいきます。
「カカオ豆の原産地は中南米ですが、現在はアフリカで8割が生産され、アジア各地でも栽培が行われています。カカオ豆にはクリオロ、フォラステロ、トリニタリオという三大品種があり、同じ品種の豆でも産地、土壌、気候によって味わいが異なってきます。ワインの原料となるブドウやコーヒー豆には品種やテロワールの違いがあることが一般にも知られていますが、カカオ豆にもそれがあるのにあまり知られていないのが現状です」。
工房「アルチザン パレ ド オール」では、産地が異なるカカオ豆をそれぞれ個別に焙煎して、産地別のチョコレートを作っています。各地のカカオ豆は、工房に到着すると手作業で選別され、蒸気による洗いと殺菌が行われます。焙煎(ロースト)は、カカオ豆の状態に合わせて温度や時間を調節しながら行います。ローストすることで、その豆の持つ香りが最大限に引き出されるのです。
ローストしたカカオ豆は粉砕していきます。ふるいにかけて皮を丁寧に取り除きながら、ちょうどいい大きさの粒になるまで何度か粉砕し、“カカオニブ”と呼ばれる状態にします。
カカオニブは熱をかけながらゆっくりとすりつぶし、さらに砂糖などを加えながら練り混ぜていきます。リファイニングと呼ばれるこの過程でとろりとしたチョコレートになり、コンチングという作業によってよりなめらかに整えられます。
この状態でもすでにチョコレートと呼べるものになっているのですが、さらにカカオバターを安定した状態にする温度調節作業のテンパリングを行います。
最後に、型に流し込んで冷やし固めます。このようにして単一の豆(シングルビーンズ)から作られた板チョコは、そのまま「ビーントゥバー タブレット」と呼ばれる製品になります。
また、チョコレートをブロックの状態で保存し、別の豆で作ったチョコレートや、ミルク、クリームなどさまざまな食材と組み合わせて新しいショコラが生み出されます。チョコレートは時間をかけてエイジングさせると味わいが変化するという性質も持っているため、その組み合わせの可能性は無限ともいえるでしょう。
「チョコレート製造の全工程を一貫して行える職人は世界でも数えるほどしかいません。工程の分業が当たり前になっている大手メーカーにはできないことを、私たちは手間をかけて行っています。カカオ豆の個性を引き出すという作業には、まだ誰も手をつけていない領域があるのです」と語る三枝さん。「そのことに、自分自身のミッションを与えられたように感じています。この前人未踏の領域に、人生の限られた時間を賭けてみたい。やるからには最上のものを提供できるようにしたいのです」。
フランス「ベルナシオン」のエスプリを受け継ぎ、さらにその先へ進みたいという熱い思い。その志のもとで作り上げられたショコラは、ハービスPLAZA ENT4階にある「ショコラティエ パレ ド オール」のショーケースにさながら宝石のように並べられています。
清里高原で生まれたシングルビーンズの「ビーントゥバー タブレット」には、キューバ、ハイチ、メキシコ、ベネズエラ、ベリーズなど中南米カカオ豆から生まれたものもあれば、タンザニア、ガーナ、マダガスカル、ウガンダなどのアフリカや、ベトナム、インドネシア、インドなどアジアの豆から生まれたものもあります。コーヒーやワインのテイスティングのように、味や香りの違いを楽しんでください。
ショコラティエのスペシャリテである「パレドオール ノワール」はビターな味わいのなかにキレのある酸味が、「パレドオール ラクテ」はキャラメルを思わせる優しい甘みが感じられる逸品に仕上がっています。また、ボンボンショコラ「獺祭ショコラ」は、日本酒とチョコレートのマリアージュとして大評判となり、現在最も人気のあるひと品です。
イートインコーナーでは、ドリンクと風味のよく合うショコラをセットにした「マリアージュセット」や、季節が感じられるチョコレートパフェ、自家製カカオパウダーのドリンク「ビーントゥココア」など、豊かな香りを感じながら、くつろぎの時間を過ごせる大人のためのメニューが揃っています。
チョコレートの一粒一粒が持つストーリーに思いを馳せながら、甘く緩やかな時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。
ショコラとお酒のマリアージュを提案
ショーケースには40種類以上のボンボンショコラや、ショコラを使ったパティスリー、ケーキがずらり。ショコラにあわせてブレンドしたカフェ、ビーントゥココア、ハーブティーもそろっています。また、シャンパンやウィスキーなどのお酒とショコラの相性を味わう「マリアージュセット」もおすすめ。さまざまな形で、ショコラの楽しみ方を提案しています。
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